――――ベンッ……ベベンッ…
互いに目を閉じて音を聞く。
だが、同じところで手は止まる。
しばらくしても演奏を始めない哀音に小椋が声をかける。
「愛音、どうかし…」
「ご容赦下さい。この曲はまだ……未完成なのです」
震える手を撥を握って隠す。
小椋は残念そうに眉根をさげてから、微笑を見せた。
「曲も弾き方も様変わり。不思議やと思っていたが、それは愛音が曲を作っているからなのだな」
「心の赴くまま、三味線を奏でることが出来るのは三味線奏者だけです。島原の音楽は決められている、そう知ったときから私は私にしか奏でられない音楽を求めて、作りました」
今演奏した、母の曲を除いては。
喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。話す気にはなれなくて、誤魔化すように三味線の弦を弾く。
―――ベンッ
小さく響いてい音は、開かれた窓から飛び出していく。
小椋は「そうか」と言ってから口を開かなくなった。
しばらく考えてから、はっと目を大きくした。
「今の曲は……他にも弾ける人がいるんやろうか」
