奥について行き階段を上がると、突き当たりの部屋の襖をあけた。
待つように言われ、一人になった哀音は中に入りゆっくり腰を下ろした。
全ての音を鳴らし確認してから、息を吸った。
―――――ベンッ……ベベンッ…
ゆっくり弦を弾いて目を瞑る。
しっとりと切ない曲は、母が初めて教えてくれた懐かしいものだった。
途中まで弾いて手が止まる。いつもそう。最後まで弾こうとすれば、手が震えて動かなくなる。
「綺麗な曲だ」
後ろに、小椋が立っていた。
手には書物が抱えられていて、名簿だと分かるとその多さに店の良さが伝わってくる。
「名簿と50文。…先程の曲を、聞かせてくれないか」
「……あれはどこでも聞けるような曲です、他の曲にしては」
「心地よい曲やった。島原でも聞いたことがなないくらいな」
「………」
腰を下ろした小椋の手から50文と名簿を受け取り、懐へ入れると三味線を構え直した。
