低い声に感情は読み取れず、隊士を止めるためだけに動いたのだろうか。
哀音は内心ひどく驚いていた。彼は哀音を知っているのに――顔を見て気づいているのに、否定の言葉を述べた。
好都合といえど、腹に何か隠しているとしか思えない。
「離せ…!」
「新選組隊士が事を起こしてどうするつもりだ。用事を済ませて屯所に戻るぞ」
「……ちっ」
舌打ちをして無理やり前川の手を振り払うと、背を向けて歩き出す。
1つ息をつくと、前川が哀音に向き合った。
「申し訳ありません、気分を害されたことでしょう」
「少し、驚いただけです」
「人違いとはいえ、失礼なことをしました。それでは」
礼儀正しく礼をして、去っていった隊士の後を追っていった。
まるで知らない様子。それが胸に引っかかる。
動きを止めた哀音に、小椋が心配そうな表情をして膝をついた。
はっ、と気づいて顔を上げれば小椋が見つめている。
