決まり文句のように礼を言いながら、必死に平静を装う。
「私の名は、愛しい音の愛音。どうぞ、お見知りおきを」
「小椋義春(おぐら よしはる)だ。愛音というのか。不思議な名だ」
「不思議??」
小椋は哀音の持つ三味線に目をやった。
使い込んでいるため年季を感じさせるが、目立った汚れはなく美しいまま。
何かを物語るように、陽を浴びて光を受ける。
「愛しい音を奏でる者と哀しい音を奏でる者。相対してるはずなんに、まるで添い遂げているように同じ気がする。
町を騒がしている哀音も、愛音と名乗りたかったと叫んでいる、そんな響きを感じる」
初めて言われたからだろうか。何も言えない。何も言葉が出てこなかった。
黙っていると、小椋は気づいて眉根をさげた。
