「ねぇ、前川さ……前にあげた金平糖、食べた?」
「とても美味しかったです、ありがとうございました」
「橋で愛音だっけ、あの子と話したときに金平糖はあげてない?」
「いえ、渡していません。……それが、どうかしましたか」
「金平糖がお前の倒れていた近くに落ちてたって聞いてね。気になったから聞いただけ、じゃあね」
用済みというふうに前川を抜かして、いつもと変わらない足取りで去っていく。
金平糖がこぼれ落ち、月光に照らされたあの時を思い出して青あざができた脇腹を押さえた。
――*――
―――ベンベンベン
橋の近くに腰をおろして、三味線を奏でる。
川の流れる音、風の音、草の音全てを音楽に取り込んで演奏する曲は、いつもよりゆったりとした、心安らかにするものだ。
豪勢な髪飾りを1つに纏めた髪に付けて、華美ではない質素な着物に合わせている哀音は、目を閉じたまま弾いていた。
『ねえねーっ!』 『おいで、 』 『本当に三味線が上手だな、 は』
記憶が抜け落ちたように、母や父が自分を呼ぶ声だけ聞こえない。
ずっと一緒にいようとよく抱きついてきた楓
いつも皮の匂いを衣に染み付かせて三味線を作り売っていた父
三味線の良さを伝えたいと稽古をつける仕事について幸せそうな母
家族の顔ははっきりと鮮明に思い出されるのに。
たまらなく哀しくなって、手を止めた。
