「約束は守ります。…私はもう行きます、失礼」




名簿を見終え、袂(たもと)に入れると歩き出す。


今回も探している男はいなかった。

表に出さないよう、こっそりため息をつくと一度も振り返ることなく去った。





料理茶屋を出て、数歩進んだ所で吐く息が白いことに気がついた。






冷たくなり始めた風が、上で結ったせいであらわになったうなじに寒さを与える。




切れ長の目を細めて、先程使ったいちょうの形をした撥(ばち)を懐から取り出した巾着の中へ入れる。








中に入っているのは二枚の撥。 一枚は桔梗の絵が描かれたもの。
撥に絵が描かれていることは少なく、無地の単色が主で、演奏している時も珍しそうに見ている人もいた。