「傷はまだ痛むか」
「少し。ですが平気です、ご迷惑をおかけしました」
「明日でいい、副長の元へ行け。今夜あったことを聞きたいそうだ」
「………はい」
哀音の事を話すか否か。
金平糖をこぼした彼女は間違いなく、橋の近くで会った彼女だ。
沖田も斎藤も彼女を知っている。報告をすれば、すぐに捕縛をし藩(うえ)へも報告するだろう。
何故だか、ためらわれた。
やられて悔しいからでも、何も出来なかったことを自分の口から言うことが嫌なのでもなくただ――――哀音の言葉が胸に引っかかっていた。
「信念だから」芹沢鴨に会いにいく。
言っている意味が理解出来ない。
何かを誤魔化す表情ではなかったが故に
もしかすると、自分の知らないことを哀音が知っているような気がして。
「斎藤さん、副長に今からお会いすることは出来ますか」