「これが50文と……今回来て下はってる客さんの名簿や。これでよろしいな」
「ありがとうございます」
名簿を受け取り、すぐに目を通す。
男は不安げに愛音を見つめている。名の知られる商家であるため、信頼は絶対。名簿を見せるのも内密にという約束で、男に迷惑をかけないことを前提にしているが、気が気でないだろう。
愛音が演奏するにあたり、条件を提示した。50文の報酬と客の名簿を見せること。
男は今回来る客の名簿なら見せるから、と願い出たためそれで承諾した、
「演奏するかわりに客の名簿見せろなんて言うはる方はんて、あんさんが初めてや」
「嫌でしたら島原に行ったらどうですか、と言ったはずです。島原は高いですが」
「そらそうや。それにあんさんの演奏は島原ですら聴く事は叶わん。客さんの名簿見ても他言無用で頼んます」
