雪道を走るのは、慣れない。
足をとられそうになりながら、短刀をしまい後ろを振り返ることはしなかった。
前川は、気づいていた―――何故殺さなかったかと聞かれればそれは、あの訛りの持ち主ではなかったから。ただの新選組隊士を殺す意味はない。
それでも、殺しておけばこんなに動きにくくなるであろう冬を過ごすこともなかったはずだから、判断を間違えたかと自責の念は胸を渦巻く。
町で前川に会えば捕縛されて投獄される。悪党がのうのうと生きて、哀音だけが投獄されるのはどうしても、嫌だった――許せなかった。
芹沢鴨の居場所がつかめれば、話は早いのだが。
酒豪で商家や大店に行っては金を巻き上げて――とにかく1つの場所に留まらない。屯所に行けば会えるかもしれないが、そこで刃を向ければ分が悪いし何より入る時点で、詳しく調べられるだろう。
三味線奏者が芹沢鴨の元へ行く術は限られているのだ。
足をとめて、雪に覆われた空を見上げた。
