「そんな愚かなこと、出来る訳ないだろう。…おい」
1人に構っている間に残りの男――3人が近寄ってくる。哀音は足に力を入れながら、微笑を絶やさない。
安心したのか、男の気を張っていたものがぷつり、と切れたように感じた。
「芹沢局長より、俺達が可愛がってやる」
「良い思いさせてやるよ」
「連れて行ってもらえるのですか」
「俺達を満足させられたらな」
―――風を切るように、手が伸びたかと思うと、哀音が短刀を首に突きつけていた。
男の息を飲む音がはっきりと聞こえた。
「そんな暇はない」
2人の男が間空いをとって刀をぬいた。
真面目な男が「何をしている、刀を下ろせ!」と叫んだが誰も耳を貸さなかった。
雪が降り続いているせいで、辺りは寒気に包まれて体の動きを鈍くする。
酔っていることもあり、刀が僅かに揺れているのに笑みを消した。
短刀を持つ手に力を入れて、刃をゆっくり動かした。
――雫が雪に落ちて色を変える。
男の表情が恐怖に歪む。
「三味線……?貴様まさか!!」
「哀音は男のはず……!」
