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大きな月が、夜の寒空に映える。
雪が再び降り始めて、人々は家路について暖をとっている。
哀音は朱色の着物を身にまとい、髪を1つにまとめた。胸の鈴、懐の撥を確認し町へ足をのばした。
島原大門がそびえ立つ。近くにいつものように腰を下ろすと、三味線を構えた。
――ベンッベベンッ
冬は静かで音がどこまでも響いていきそうだ。
息を吸うと。
いきなり弦を弾くてを速めて曲を演奏する。
喧嘩するような、争うような音楽は誰の耳にも届いた。と、曲風は変わり落ち着くような、癒しを与える音楽へと姿を変える。
哀音が作り上げるのは1つの物語。
淡々とした、同じ曲調の音楽は誰にでも演奏出来る。哀音しか奏でられない曲を、哀音にしか作れない物語を、人の耳に届かせたい。
1音1音を言葉にして、誰かの耳に言葉が届くのならばきっと、幸せなのだろうと思いながら、月や風、雪を観客にしながら弦を弾いた。
