「そういえば、花魁にならへんかて話、きてるって聞きましたけど 」
「ウチにはまだ早いと思うてます。姐さんみたいな花魁になりたいと思うてますから、今の内に修行しておきたくて」
「嬉しいこと言うてくれはるんやねぇ。せやけど、身請けが決まったさかい、ウチはあんさんの花魁着を選ぶ夢が遠のいてしまうんやね」
残念そうに眉根を下げる姐は相変わらず綺麗で、彼女はわずかに顔を曇らせながら三味線と琴の音楽を楽しんだ。
―――ベンッ
三味線で最後の1音を鳴らし終えると、息をゆっくり吐いた。
三味線だけの中途半端な曲のせいで人は集まってこなかった。
―――ベンッ…
軽く弾くと音は震えながら人々の雑踏に揉み消される。
毎日三味線を演奏し、夜は哀音となり人を殺めてきた。この中に、芹沢鴨は…哀音が人を殺めるきっかけになった人物はいるのだろうか。
再び場所を変えるために立つと、島原大門から遠ざかる道を歩き始めた。
行くあてもなく気の赴くまま歩いていると、橋が見える。川が流れ、近くには花が咲いている。
冷たい風が頬をかすめて、花を揺らした。
『いやぁぁぁぁぁぁ!!!!』
水の音。飛び散り咲くのは真紅の花。
すべてを真っ赤に染めた日。
全身が震え上がる。哀しい思い出が、頭を占める。
