―――川の流れだけが闇の中に響く。



足元にあった小石を手に取り、川に投げ込む。






ぽちゃんっ、という音が寂しかった。









「どうかされたのですか?」











気配を消して、音も立てずに、彼女はやってきた。








「あなたが約束の時刻よりこんなに早いなんて。初めてですね」







「風にあたりたくてな。…怪我は大丈夫か?あの後、何があった?」





「あの後、恩師に助けられました。皆が避難している寺で手当てを受けて、新選組のことも聞いて、ここに」










若先生と言っていた、あの人だろうか。哀音の表情が、柔らかくなった。






そうか、と簡単に返して川を見つめる。










「恩師はどうだった」







「元気でした。……たった、5年、6年なんですよね。何も変わっていなかった。……本当に、何も」








哀音の声が、かすかに震えた。












でもそれは一瞬のことで。哀音はそっと、川の水に触れて口を閉ざした。









「哀音。……手合わせ願いたい」