「お姉ちゃん、気分は悪くない?傷は痛まない?」
「うん。…心配かけてごめんね」
「ううん! 先生がね、お姉ちゃんが寝ているのを見て言ったんだ。お姉ちゃんの体を2回も治すことになるとは思わなかった、って。こうして傷をつくるような子にしたのはきっと、自分なんだろうな、って。
……お姉ちゃんはどうして刀を持っていたの?どうして先生は、寂しそうだったの?」
平太の言葉に何も返せなかった。
若先生と師匠は自分を助け育ててくれた。もし、その事を後悔させているならそれは。
「親不孝者だな…………」
「お姉ちゃん?」
「わたしはね、平太くんのように親を亡くしたの。妹も誰も守れなかった。何も出来なかった。だから、刀を持ったの。復讐する力と、誰かを守る力が欲しかったから」
もう潮時だ。本当の事を話せば平太は、傷つくだろうか。恨むだろうか。
「復………讐……?」
「………親を殺し、家族を壊した者への復讐。その為に、わたしは桔梗でなく……」
息を吸って。
「哀音になったんだ」
平太の顔から血の気が引いて、驚いた、でも悲しいような―――そんな表情をした。
当たり前だ、自分の親を殺したと思っている哀音が目の前にいるのだから。
「わたしが哀音になったのは、人を殺せばこんな風になる子がいるという見せしめ。
人は知らなければ何も変えれない。変われない。たくさん人を殺したけれど、これで何かが変わるなら………わたしは、閻魔の大王に舌を抜かれたって、地獄で苦しんだっていい。それが、わたしが哀音として生きてきた全てだから。
………平太くん、わたしのこと恨んでいい。これから先、こういう人斬りがいたんだって、伝えていって。そうすればもう、無意味に人を殺す人がきっと、いなくなるから」
平太は何も言わず、唇を強く噛んでいた。涙を目にいっぱい溜めて、拳を作っていた。
と、突然襖が開いた。
「にーちゃん!」
「!壱太、ちゃんと声をかけてから入らなくちゃ、だめだ。お姉ちゃんが驚く」
壱太と呼ばれた幼子は隊士が声をかけていたあの子だった。
「おねーちゃん、ごめんなさい。あのね、ありがとう言いに来たの!」
屈託の無い笑みでそう言う。そんな壱太を見ながら、平太は呟くように言った。
