「平太くん………」
「お姉ちゃん、もう………大丈夫?」
背が伸びて少しだけ大人びた少年は、まだ幼さを感じさせる瞳を向けながらそう問うた。
「驚いたよ、桔梗が弟みたいな子をつくるなんて」
「そんなんじゃないです。……親も、親のように慕っていた人もなくして……それでも一生懸命生きていて。私もこんなふうに生きれたのかなって」
そうしたら、師匠の死も看取れたのに。今、ここにいなかったのに。
「平太くん、ありがとう。大丈夫だよ」
「平太、水を汲んで持っておいで」
「うん、わかった!」
襖を開けたままにして姿を消した平太を見てから、哀音はゆっくり話し始めた。
「あの子は、長州藩の子です。わたしの家族を壊した者たちの仲間。………、わたしがあの子の親を殺したかもしれない」
「長州藩か。だから少し訛りがあったのか。長州藩だったらこれから生きていくのに苦労はしないね。薩長は直に政権を握る。……桔梗の家族を壊した仲間の子供――――近いようで遠い平太を突き放さないのは?」
若先生は立ち上がると襖を閉め、振り返った。
「わたしは………命を奪うことで哀しむことは、分かっています。だからこそ彼から憎しみや哀しみをなくしてあげたいあの年で憎しみや哀しみに浸食されれば、わたしのようになってしまう。
哀音(人斬り)になるのはわたしだけでいい。この生き方は哀れで愚かで、幸せではないから」
天井を見つめて、哀音は答える。
若先生は表情を変えないまま静かに言った。
