―――夢だったのかもしれない。
あの日あの村で桔梗は死に、これは天国に行くまでの夢だったのだ。師匠や若先生と出会ったことも、楓に会えたことも、全ては都合のいい夢。
近づいてくる新政府軍2人に、木山と江藤を重ねる。
「………………」
「はっ!」
声とともに浅葱色の羽織が現れて、2人を斬った。
流れるように、でも決められた剣の振るい方。
刀を収めて駆け寄ってくる前川に、閉じそうになった目を開けた。
「哀音、生きているな!?」
「……ぅ……」
声を上げると前川はすぐに体を起こさせ、血だらけの腹部に顔を歪ませた。
「新、政府…軍が、攻めようとしているっ……。東側、から……、多数の軍が、新選組を……狙って……」
「わかった。…とりあえず、すぐに手当を」
「いい。………手当は、いらない。少し先に、塀に寄りかかっている…隊士がいる。隊士を、助け、ろ……」
「哀音、それは」
「新選組の仲間ではないわたしに、薬を使って……隊士を、助けられなくなったら、どうする。……早、く……行け。大切な仲間が腕を斬られている。手当、を………」
視界が霞んで、彼の顔ははっきりと見えなくなってしまう。
前川は小さく頷いて、哀音の体を塀に預けると、手ぬぐいを破り繋げて長くして、腹部に強く巻き付けた。
「必ず戻る。生きろ」
