籠に戻ろうとする楓を引き止め、聞こえるか聞こえないかくらいの声で。
「着物、よく似合っているよ」
楓。
楓の顔が歪んで、涙がぼろぼろとこぼれ始めた。
肩を持つ小椋の手に力が入るのが目に見えてわかり、胸がしめつけられるように痛んだ。
「……行こう」
楓が籠に乗り込むと、小椋がこちらを向いた。
「花の名は、花えで。彼女も家族を探していたのかもしれへん」
そう言い残し、籠と共に動いて去っていった。
遊女となると、名を変えるのが普通。本当の名で昔や故郷を思い出し、使い物にならなくなることを避けるためだったり、新しく生まれ変わり生きるという意味だったりする。
どういう経緯で島原の世界に入ったかは分からないけれど、かえでの名で働いていたということは、何かの噂で自分の名が知れた時に気づいてもらえるように、ということだったのかもしれない。
「ごめんね……」
区切りをつけるまでは。
あなたを抱きしめる事も、姉として接することも出来ないの。
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