――――ギイイ……
考えていると、大門が開いた。
まだ昼にもなっていないのに、珍しい。客が帰るときに開けるなら、もっと早い時刻だし、何かあるのか。
大門の向こうから誰かが歩いてくる。男性と、籠を引く人だ。
大門をくぐり、哀音の前で止まった。
「愛音…」
「小椋様…お久しぶりですね」
「あぁ、本当に。前川さんとは会えたんか」
大坂で前川が小椋の名を出していたことを思い出す。楓のことを知っていると。
「はい。…小椋様は、身請けされたのですか」
身請けというのは島原にいる遊女を、身代金を払いその商売を辞めさせることで、身請けをすると大抵は妻として迎える。
籠と共に大門をくぐってきたということは、そうなのだろう。
「……やっと、夢を手にすることが出来たんや。覚めぬ夢を」
嬉しそうに、笑った。
「義春さま、お知り合いですか?」
籠の中から声がする。
―――しゃんっ………
小さく鈴の音がした。