――――ベンッベンッ
三味線の音を鳴らすと、音を聞きつけた藩士十数名がやってきた。
三味線を背にしてにっこり笑う。
「哀音か!」
「捕まえれば先生も喜ぶじゃろうな!」
刀を抜いて構える。
哀音も懐に手を入れて、短刀が取り出せるように構えた。
にっこり笑った顔で一歩踏み出すと、自慢の足で駆け出した。
素早く短刀を出し、藩士らの足に力が入ったのを見て、笑を消した。
「どんなに構えても、無駄だ」
姿勢を低くして鞘で体に当てようとすれば、刀で受け止められる。鞘を持つ手に力を入れて、空いている右手で刀を抜き、足で相手の足をひっかけて崩れたところを斬りこんだ。
藩士が倒れ込む前にそれを盾にして、他からの攻撃を受けると、体の隙間から突いて相手が力なく倒れる。
「まったく、面倒な仕事」
周りには藩士の死体。血の臭いがただよう。
西の方角では新選組が長州と戦っている。少しでも足止め、人数を減らすことが此度の仕事。
長州征討と呼ばれるこの戦いは、6月から始まった。徳川家茂が指揮をとっているが、開戦に消極的な藩ばかり、薩摩藩の後援を受けた長州藩の士気は高く、敗戦続きだった。
今回負ければこれからの事を考えて、撤退するのだろうがそれまでが長い。
そう考えて、呟く。
「この戦いに参加している時点で、政(まつりごと)に関わっている。わたしは結局、自分の思いとは違うことをやっていくのね」
事実上の新選組派―――幕軍となっているのだから。
直接関わらなくとも、これから先巻き込まれることに変わりはない。
後悔はしないけれど。