「………何故、わたしに構うのですか。わたしに構って、良いことなど1つもなかったでしょうに。……何故」
「……何故だろうな。哀音という人斬りが哀れと感じたからかもしれないし、情が移ってしまったのやもしれぬ。それは、はっきりとはしてない」
雨が強くなり、音を大きくする。
桶の水に指を触れさせると、桶にうつる哀音の顔が歪んだ。
「……わたしは、貴方と出会ってから………哀音ではなくなったのでしょうね」
「桔梗…?」
「独りと言いながら、どこかであなたがわたしの中にいた。独りでなかったからきっと、弱くなった……」
「わたしは、そうは思わない」
前川はまた一歩近づいて、桔梗の傍らに立った。
