「桔梗、送る。話したいこともある」
「…………」
「屯所へ行くのは嫌だろう。それに今なら誰も見ていない」
前川も刀を収めて、それから借家の方へと足を進めた。
哀音もゆっくりと、後に続いた。
「いいのですか、お仕事は?」
「哀音が長州についた場合は、斬れ。そうでない時の判断は一任する。そう、命を仰せつかった。お前が気にすることでもないだろう」
雨にうたれながら歩き、借家に着くと哀音は手ぬぐいを前川に渡した。
「すまない」
「少し、待っていて下さい」
襖をしめて着ている物を変えると、再び襖を開けた。
「江藤仁、木山金太郎」
呟くように発して、段差に腰掛けた。
「その二人が?」
「そうです。といっても、確かめることは出来ませんでしたが。……2人と会ったら、殺すつもりでいました。それで、死のうと。でもきっと、死ねないと思いました。わたしには利用価値がある。
助けられ、恩を売られ、利用され続ける。そんなのは嫌だと思った。だから今、わたしは貴方といる」
「これから、どうするつもりだ」
水の張った桶にうつる自分の顔を見ながら、答えた。
