途端に男が前川を襲い、咄嗟に反応して刃のぶつかる音をたてた。
容赦なく斬り込んでくる男に、防戦一方の前川。哀音をちらりと見ながら、戦っている。
「前川!」
土方が隙を見て加勢しようとするが、藩士がそれをさせない。
「副長、大丈夫です!……っく!」
「よそ見するなんて余裕だねぇ…斬っちゃおうかなぁ…!」
男が力で前川を怯ませた。よろめかないよう、足に力を入れて踏ん張って、隙を見せないよう努めているのが窺える。
この男を生け捕りにして、木山と江藤の場所を吐かせてもいい。けれどそうするには前川の腕では無理だ。だから殺さずに、こちらを―――答えはまだかと、見てくるのだろう。
これから先、利用されても良いのか。政に巻き込まれ、その最中で命を落とすことになっても良いのか。
そんなもの、決まっている。
「反吐が出るほど、嫌だわ」
走り出し、短刀を懐から取り出すと、それを見た前川が男に足をかけつつ刀をはじいた。
体が傾くその瞬間、短刀が心の臓を貫いた。
大量の血が、雨に混ざって散る。
小雨だったのが、強まってきた。
「なぁ……ぜ……」
「お前の元で使われるのも、お前のような者から情報をもらって借りを作るのも、嫌だったからだ。長州の人間なら斬れるんでね」
短刀を体から抜いて、血を払った。
鞘に収めると、前川が一歩近づいた。
