短刀を出せるように柄をもち、息を吐く。
「どちらに用がある?」
「どちらとも、だ」
建物の陰から永倉と原田が姿を現した。
となれば、新選組か。随分と大人数できたな。
「哀音を長州に渡すわけにはいかねぇんだよ」
「あれれぇ……?君達もこの子を欲しているんだぁ?」
「長州なんぞに哀音は渡さねぇ」
永倉が刀を抜くと、原田も槍を構えた。
男はにたりと笑みを浮かべると、心の臓のあたりに手を当てて、礼をした。
「新選組にもてなしをしようじゃないか……」
そう言った途端、大勢の足音が聞こえたと思うと、永倉、原田の2人は背後を気にした。
待機させている平隊士の方を見ているのだろうか、眉間にしわがよった。
「これは平隊士に対する分だよ。幹部(きみ)達には、こっちぃ……だよぉ」
指を鳴らすと長州藩士が出てきた。
それにより、出方を窺っていたであろう土方、斎藤、沖田が東側から、藤堂が西側―――永倉、原田側から出てきた。
「さぁ、哀音……行こう」
「準備が、いいのね」
「哀音に刃を向けられたら、勝てないからね。それに……新選組が哀音を屯所に招いたのは、しっている……」
男と2人、歩き始めると幹部が動こうと刀を振るい始めた。それが合図かのように、刀のぶつかり合う音が響いた。それを何とも思わないかのように歩いて進む。
