「局長、手の内に入れることをよく考えて頂きたく存じます」
失礼と分かっていても撤回するつもりはない――その意図を土方は汲み取り、近藤に目をやった。
「分かった。ではこうしよう。哀音くん、協定を結ばないか」
「新選組にも長州にもつかないと、示すために、ですか」
「それがあれば、哀音くんが脅威になることはなくなる。力を殺すこともなく、また長州にとられることもない。どうだろう」
「――――断ります」
広間にいた全員が反応を示した。
沖田はすぐ刀を抜けるよう、鞘から少しだけ刃をのぞかせ、土方は睨みをきつくし、近藤、前川は驚きを隠さなかった。
「どちらにつくつもりもありませんが、己に利益のためなら新選組にも、長州にもつきますよ。それは当然のことでしょう?わたしにも目的がある」
土方が襖の向こうに視線をやって、哀音に戻す。動きがないところを見ると、まだ土方が制止しているらしい。
政(まつりごと)に巻き込まれるのは御免だ。哀音の目的は、家族を壊した、人生を狂わせた者達への復讐。それを果たすためなら動くが、利用されるために巻き込まれるのは嫌だった。
「何を求める」
「それは調べて下さい。こちらから手の内を明かすことは、ありません」
土方から近藤に視線を移す。
「あくまで客人としてここにいるわたしから1つ――殺気立っている幹部を襖の向こうに待機させるのは、よろしくないと思いますよ。不快です」
無言を肯定と受け取り、前川を見た。
近藤を見続けていた彼だが、哀音の視線に気づいた。
