「局長、私は咎められようと構いません。覚悟の上で哀音に近づきましたから。
ただ、哀音は蛤御門で新選組に手を貸しました。それはご存知のはずです。そして、1度だけ手を貸すように話をした、ともご報告致しました。1度だけという約束を武士たる我々が破っていいのですか」
「…………」
「前川、長州に哀音をとられたら元も子もねぇんだよ」
土方が厳しい口調で言う。
「哀音を長州にとられたら脅威となり、新選組が手の内に入れれば哀音は脅威ではなくなります。……話を聞いて頂けませんか」
拳を床につけ頭を下げる。
幹部がいるこの広間で、彼は何を話そうと言うのだろうか。目をつけられて、信頼も失いそれを回復するためには今ここで哀音を諭し、味方につける以外方法はないだろう。
「話してみなさい」
近藤が話しをするように言うと、顔をあげた。
「ありがとうございます。……哀音は独りでなら何人も殺めることが出来ます。独りでなら彼女は何だって出来るでしょう。
我々の戦い方は仲間と共に、誠の旗の元に集った者達と共に、戦い抜くやり方です。そのやり方は哀音と全く違う。哀音を手の内に入れれば作戦を成功させるために、仲間として共に戦うことを余儀なくさせるでしょう。
それはつまり、人斬りの力を殺すことになる。
長州は、哀音が恨む相手であり共に戦うことはしないでしょう――長州は人斬りの力を、殺さない――故に哀音を脅威として使える」
幹部は黙って話に耳を傾けていた。
哀音を庇うよりは、新選組に利益をもたらすかどうかを説いている。
近藤は1度頷いた。
意見でもある発言は、出すぎた真似だ。失礼に値するということは、よく分かっている。
