「だからこそ、だ。哀音の力を知っているから。……この際敵だったなんざ考えてられねぇんだよ。俺たちも長州の奴らも、それはおなじはずだ」
懐にしまった文を思い出す。長州藩士の人物が仲間を売ってまで知らせたとしたら、手の内に入れるため。
膝の上に合わせた手に力が入る。
罠だったとしても、哀音の全てはこの2人に復讐すること。
新選組の手の内に入れば、動けなくなる。裏切らぬよう見張られ、撒けば騒がれる。
「………、私は誰の手の内にも入るつもりはありません」
「こちらにつくと言ってくれるだけで、我々は哀音くんを守ることも出来る。悪い話ではないと思う」
近藤が真剣な顔をして言う。
「仲間がいると、人は弱くなる。それに、守られるのは嫌いなんです。
…さぁ、どうしますか?私をここで、それとも帰り道で殺しますか」
笑みを浮かべて返すと、土方は哀音から目を逸らすことなく口を開いた。
「入れ」
