土方の低い声に、驚きの色を見せる。
禁門の変で朝敵とみなされた長州藩に、長州征討という命が出されることになったのは知っていた。
その長州藩が哀音を欲しているということは、つまり。
「力……」
「蛤御門(はまぐりごもん)を守った際、哀音一人の行動で新選組は勝利へと導かれた。残党がそれを藩に伝え、哀音の力を欲するようになったらしい」
「……、新選組は長州に哀音(わたし)をとられる前に、手の内に入れておこうと考えているんですね」
「そういうことだ。正直、脅威である哀音がこちら側につくとなれば、動きやすい。だが敵となるなら殺す。それまでだ」
近藤、土方、哀音しかいない広間。
戸の向こうには幹部が待機しているのだろう、微かに殺気を肌に感じる。
平隊士を傷つけ、永倉に怪我を負わせた―――敵だった者だ、偉い方2人と会わせるのには危険すぎる、そう判断されたということだ。
当然の処置にすぎないけれど、殺気は抑えてほしいものだ。
「私は今まで、長州藩士のみを手にかけてきました。長州に恨まれること、恨むことはあっても共に戦うことはあちらとて、嫌なはず。
急いで私を手の内に入れる必要はないでしょう」
