「これから戦う相手は、長州藩だ。長州藩の敵は我ら新選組。哀音は気にされていない。つまり、動く絶好の機会という訳だ」
「そうですね」
「作戦は先ほど話したとおりだ。私たちは蛤御門で戦うことになるだろう。石笛(いわぶえ)で合図したあと、蛤御門まで来るんだ」
石笛(いわぶえ)を口にあてる。息を吹き込むと、低めの――けれど響く音が鳴った。
抑揚をつけて最後に強く吹くと、石笛を口から離した。
この音は前川に作戦を聞かされた時に、もうしばらく待てという合図に使うと、話をつけてある音なので、気づくだろう。
蛤御門へと向かい、走り出す。
途中、火事で崩れた建物から手頃の大きさの木を手にした。木刀とまではいかなくとも、使えるはずだ。
自慢の足で蛤御門まで行くには、時間はかからなかった。
長州藩の大砲と、藩士の背中が見えた。
奥には蛤御門。新選組と哀音で長州藩を挟んでいるかたちになっている。
「…打て!打てえええ!」
格好のちがう一人が叫ぶと、大砲が動き玉を飛ばした。
建物の影に隠れながら、大砲の近くまで向かう。
近づけば近づくほど、音は大きく地面の揺れも大きく感じる。
母屋の屋根に手をかけてよじのぼり、大砲を持つ藩士に目を向けた。
上から見て、新選組と長州藩の距離は長いし、間でも戦っている様子がわかる。