事を終わらせた後、意識のほとんどない師匠に肩を貸しながら小屋へと向かった。
小屋が見える所まで来ると、若先生が気づいて師匠を部屋へと運んでくれた。
治療の間に着物を変えて、治療が終わった若先生と外に出た。
斬られて怪我したところが、今になって痛く感じた。
「何があったの」
「…突然武装集団に、襲われました。師匠が、紋を見てわしに用があるんだろう?、と言っていました」
「……そうか、もう………。怖い目にあわせたね、桔梗」
紋と聞いて全て分かったのか、それ以上は聞かずただ桔梗の頭を撫でた。
「師匠から、伝言だよ。
生き続けて、果たせ。前に言った通り、独りでいることを忘れるな。
誰かといれば互いに弱みになってしまうから、死んだ後も、誰かの迷惑に、弱みにならないために、一生独りで生きろ。
非情になれ、全てを捨てろ。それが、人斬りの運命(さだめ)だ、と」
「………若先生、師匠には、もう」
会えないんですか、と聞くにはあまりにも明白すぎて。
独りでいることを教えこんだあの人は、独りで終焉を迎えようとしているのだ。
恩師に、何の言葉も、お礼も出来ないままなんて嫌だ。けれど、何もしないことが師匠に対して敬意を表す唯一の方法だと思った。
「ほっといてくれ、だってさ。寂しいくせに」
「………若先生と師匠はどうやって、出会ったんですか?」
「あの人がお上に仕えてた武士だった頃に、一度だけ会って……それから立場を追われて怪我したところを助けた時にまた会って、それからずっと一緒にいるよ。
何かあったら迷わず逃げるのと、助けるために自分を犠牲にしないって約束つきでね」
若先生は、空を仰いで笑った。
それを見た途端、たまらなく悲しく苦しくなって俯いた。
「若先生、ありがとう、ございました。わたし、二人と暮らせて幸せでした。
ちゃんとしたお礼をするべきだとは、思いますが…それをすればわたしは二人を捨てれない。
ごめんなさい…」
声を絞り、涙を零しながら言った。
一緒に暮らしたいといえば、そうさせてくれるだろう。
でも、師匠は言った。生き続けて、果たせと。
「………元気で、やるんだよ。5年間ありがとう。桔梗」
それから小屋に入り、師匠がいる部屋の前で三味線を奏でた。
弔いと、感謝と。
生き続けて、果たすという決意を込めて。
感情は捨てていく。その代わり、音を奏でて伝える。
そうして、桔梗は別れを告げた。
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