師匠の持っているのは、木刀だ。真剣に立ち向かうとしても劣る部分がある。




いくら強くても、木刀と人数で師匠が怪我を負わせられる。防ぎきれない様子を見て、胸が痛んだ。









母と父の死に様と、妹の楓の体が舞った、あの日が脳裏に浮かんだ。







「………………」








懐の短刀の柄を握った。




守られるのは嫌だ。






足に力を入れて、力の限り走り出した。







男が気づいて刀を振りおろしてくるが、それより先に腹を斬った。



手に伝わる、肉の感触に顔を歪ませる。





それでも、師匠の近くに行くために人を斬った。










「師匠っ!!」





「桔梗、何故逃げない!?」







「これから生きる為には、師匠が必要です!まだ教えてもらってないことがあります!だから、生きる為に、戦います!!」





涙と返り血で、頬が濡れる。





怖い。怖い。怖い。




恐怖でいっぱいなのに、師匠の元に行くことだけを考えて足を進めた。








女の手では、負ける部分はおおい。それでも、師匠を傷つけられたくなかった。




師匠を背に、短刀で戦う。







「っ、くっ……」







一人に力任せに刀を振られ、態勢が崩れる。





そこに好機といわんばかりに、一人が突いてくる……!







「あっ――――――」










「……桔梗」







刹那。






師匠に腕を引かれ、抱きしめられていた。




師匠の体の向こうに男がいて、自分を庇ったのだと気づいた。








「子供に守られる親というのは、情けない」





「…し、しょう……わたしはっ!」







「養い子だったが……お前は、わしの娘だっただろう……?」









背にゆっくり手を回すと、刀が刺さっていた。




出血も多い。医術をかじった者としては、これが何を意味するか分かっているし、師匠も分かっているだろう。










「……っ、師匠……っ」









師匠が力なく垂れて、体重がかかってきた。




荒い息がやけに耳につく。








歯を食いしばって、手から滑り落ちていた短刀を握り締めた。





師匠を木に預け、短刀を片手に動いた。












人を初めて殺した、冬だった。