静かな面持ちで、手の上にあるものを見つめている。ゆっくり近づいて師匠は声をかけようとした。
「き……」
「師匠……お願いが、あります」
それより先に、桔梗の声が遮った。
涙を目にいっぱい溜めて、見上げている幼子。
「わたしに、剣術を教えてください。わたしは、力が欲しい」
人を守る為でも、何かを壊されないようにする為でもなく。
ただ、復讐する力が欲しい。
師匠は、瞳からその思いを痛いほどに感じた。
人を殺すための、恐ろしい力を求めるのは、わずか10の女の子。
「お願いします」
「お前は、人を殺すことを望むか」
今まで聞いたことのない、低い声に驚いたが顔には出さないようにした。
ただ師匠を見つめ、一度たりとも逸らさなかった。
「殺せば、恨まれる。お前のように哀しみ傷つき憎むやつから狙われることも、あるだろう。
何故、人殺しを望む。そのための力を求める」
「わたしは、恨まれる人になる。わたしみたいな人は、出ちゃいけないんだ。それを皆に知ってもらう。それに、わたしは絶対に殺されない。
そうすることで、誰かの生きる理由になるなら、それが1番良いです。
わたしは、刀が刺さった時、楓が川に投げ飛ばされたとき、死にたいと思いました。
でも、恨む人がいることで、わたしは今生きています。つよくなりました」
師匠は目を大きく開いた。
こんなにもはっきりと言うと思わなかったのだろう、表情で見てとれた。
母屋で撥を手にしたとき、憎いと思った。復讐しようと誓うと同時に、こんなことをするのは良くないという思いもあった。
だから。
「………お前の行く道は孤独でなければならない。もし本当に成し遂げたいと思うのなら、一生孤独でいるのだ。
途中でやめることも叶わん。独りで生き、独りで戦い、独りで死ぬのじゃ」
「ずっと、独り………」
「それが出来ると、わしに誓え。そうすればどんなことでもお前にしてやれる」
師匠に迷いは見られなかった。
ここで人生が決まるのかと思うと、目眩がするようだったけど、覚悟は決めた。
「誓います」
「……わしの知りあいの、短刀の使い手を紹介する。短刀ならお前さんにあうはずだ。
連絡をとらねばわからんが、良い返事をくれるだろう。返事が来るまで、わしが教えよう」
「ありがとうございます」
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