「……っ!」
何かにひかれるように突然走り出し、若先生を背に置いていく。
名を呼ばれたことにも気付かず、自分が住んでいた母屋へと急いだ。
母屋は、荒れていた。
人が死んだ場所だ、誰も近寄りたくなかっただろうし仕方ない。
草は大きく育ち、三味線は壊れたまま。
「おとうさん……おかあさん、楓……」
懐かしい家族を呼んだ途端、涙が溢れて止まらなかった。
もう、あの頃には戻れないのだと。会えないのだと。
胸が締めつけられて、痛い。
そのまま中に行こうとしたら、何かが反射した。
近づいて川の近くに行くと、鈴が落ちていた。
見慣れた、妹のつけていた鈴だとすぐに気づいた。
懐にしまって、母屋に入った。
「あ……撥……」
白かったはずの撥には、赤黒い斑点がある。
そうだ、これは楓に渡そうと取りに来た撥だ。
父の倒れた近くだったのと、母が斬られた近くだったので、これはきっと2人の血だろう。
