「自分の身を守る程度なら、教えてやる。とりあえず、怪我はまだ治っていないんだ。あと2日くらいは寝て、治すことに集中しろ。三味線触って、上手くなっとくんじゃぞ」
「ありがとうございます…!」
◇◆◇
「その日から、2人―――後に師匠と若先生と呼ぶようになるのですが――と暮らすことになりました」
前川はやっとつばを飲み込むことが出来た。
瞬きも忘れ聞いていたが、哀音は表情ひとつとして変えなかった。
「…その2人のどちらかが、哀音だったのか?」
「いえ、哀音はわたし。2人は哀音(わたし)に力を与えただけです。そもそも、哀音という名は2人と別れたあと、誰かがわたしにつけた名なのです。今からまた話す中に哀音は出てきません」
そして、再び語る。
◇◆◇
「桔梗、若造手伝ってやれ」
医術を学んだ若先生の手伝いをすることで、かじる程度ではあるけど医術を知ることができた。
師匠からは護身術を毎日教えてもらった。
師匠と若先生の仕事は、人里離れたこの小屋から少し行った所にある村へおりて、人を診たり手助けをしたりすることだ。
桔梗はいつも若先生について、手伝った。
「師匠、稽古つけてくれますか?」
「ちょっと待ってな、少ししたら行く」
「準備してます」
小屋から出て、近くにある林に入る。
いつも護身術を学ぶときは、この林の中でやっている。
