-アイネ-








その手にあるのは、三味線だった。黒く艶のある、父のくれた三味線。








「銅の裏に、名前が彫ってあってな、桔梗と」








若い男から年取った男に渡り、銅の裏を見せてくれた。



綺麗に細く、桔梗と彫ってあった。












三味線に手を伸ばすと、渡されて受け取る。










「撥も、三味線の近くにあったものを持ってきた」









桔梗が描かれた撥。楓がねえねみたいだと言っていた、撥。






手にとって、三味線を構えるために座り直した。あちこち痛んだが、耐えた。










「……すう」







息を吸って。







―――ベンッ!





ああ、この音だ。温かさと、傍に家族がいる感じ。










「良い音だ」






二人がそう言って笑う。





「………おじさん達は、売ろうと思わなかったんですか…?」








「売る?三味線のことかい?」







「三味線も、ですけど……わたしも」








「売らねぇな。金に困ってる訳じゃないし、わしらは人助けを仕事にしてる」








それに続いて、若い男が言葉を繋ぐ。