村に戻れば、村の皆は迎え入れ、誰かの元で暮らすことになるだろう。
家族で暮らしたあの母屋を見、思い出に縛られる日々は平和であっても幸せではない。
何より、楓が心配だ。
息をゆっくり吸って、若い男を見つめた。
「村に戻れば、皆、優しくしてくれると、思います……でも、……戻ってもきっと幸せには暮らせないから、怪我が治ったら妹を探しにいきます」
「………」
驚いたように目を開く若い男から、50くらいの年取った男に目線を変える。
「怪我の手当をしてもらったので、お礼はちゃんと、します……」
「武術は学んだ事があるのか?」
「…………ない、です」
「妹を探しに行くといっても、武術も学んでないんじゃせっかく助けられた命を、捨てに行くようなもんだ。お礼といったな、どうやってお礼するつもりだ?」
年配の男は桔梗だけを見つめた。
「お金は……持っていないです。その代わり働きますっ…三味線なら出来ることは多いです、洗い物とか縫い物も少しだけなら」
「………若造、奥からあれとってこい」
「はい、すぐに」
扉を開けて出ていった後、口を開いた。
「桔梗の父さんが、桔梗遺した物だと思ったから、わしらは持ってきた」
扉が再び開いて、若い男が入ってくる。
