「今日は何しようか」
「桔梗」
「おとうさん!」
襖から顔をのぞかせた父の額には、汗がにじんでいた。
その父の両手に抱えているものに目をやると、父は桔梗に差し出した。
立派な三味線は革の香りがして、黒く艶のあるからだはかっこよかった。
「桔梗にやろう。前、作ると約束しただろう?」
「ありがとう、おとうさんっ!」
三味線を受け取り、桔梗が描かれた撥で1音ならした。
――――ベンッ…
「ねえねだけいいなあ〜」
「楓はもう少し大きくならないとな。それまで、ちゃんと練習するんだぞ?」
大きな手が、楓の頭を撫でた。
「あんた、お客さんよ」
「桜、わかった」
母が父を呼びに来て、父が腰をあげた。
「また、後でな」
二人の背中を見送ってから、三味線を鳴らそうとしたが、楓の視線に手を止める。
「もう1枚、撥があるからとってくるよ。お店の方だと思うから」
店に出ようとしたとき。
