朝早くから父が作業場で三味線を作るのは習慣で、1つ1つ手作りで値は張るけれど、音が良いものだから少しだけ有名だった。
寺子屋で学べなくとも、父や母の姿を見て色んな知識を教えてもらえるだけで、十分だった。
「おとうさんっ」
「桔梗、どうした?」
「お手伝いしにきたんだ!三味線の手入れの仕方教えて?」
温和な父は作業する手をとめて、出来上がっている三味線を1つ手に取ると、桔梗に手招きをした。
飛びつくように父の元に行くと座り、三味線の手入れの仕方を教えてもらった。
「こうすると良い音が鳴るんだ」
「でもおとうさん、前に聞いた三味線の音と、この三味線の音が違うのはどうして?」
「あぁ、桔梗は耳が良いね。素材の種類を変えたから、音が違うんだよ。使い道によって音が変えてあるんだ」
三味線の全ては父と母に教えてもらった。これから先も教えてもらって、幸せに暮らせると思っていた。いや、崩れるなんて考えたこともなくて、疑っていなかっただけだった。
真っ白な純白の雪が世界を包み込んだあの日。
「ねえね、寒いね」
7つになってもねえねと笑顔でくっついてくる楓に、「そうだね」と頭を撫でてあげる。いつもと変わらない1日。店の奥にあるひと部屋でくつろいでいた。
今日は母も父と共に三味線を売る手伝いをしていた。
