土方や沖田達が相手しようとするも、人数は藩士らの方が圧倒的に多いため、足止めされれば思うように動けない。
背後からくる多くの斬撃を避けながら刀を振り、倒すというのは至難の業だった。
幹部程度の実力があれば、問題はないのだろうが今の前川には厳しいものであった。
生ぬるい斬り込みしかできず、数は減るどころか応援のせいで増えるばかり。
土方に言われたとおり、他の平隊士と共に戻るべきだったのだろうか。
たとえそうだったとしても、後の祭り。
前からきた斬撃を受けると、背後から藩士が刀を振り下ろす。
体が反応せず、斬られると覚悟した。
「っ!」
前川が斬られると思った瞬間、哀音の懐の短刀は藩士の腕に刺さっていた。
藩士の体が揺れ、前川がそれを斬った。
哀音に視線が集まる。ずっと鳴っていた刀どうしの音が遠くなった。
藩士が殺気を放ちながら、こちらへ向かってくる。
対処しようとした刹那。
―――ざー………
川の流れる音が耳の奥で響いた。
手が震え、あの時の光景が重なって見えた。
全身が震え上がる感覚に陥り、途端に体が自分のものでないかのように動かなくなった。
『ねえねっ!』
一歩後ろに下がったその時、刀が振り下ろされてくる。