「哀音………」
前川の呟きに、永倉が目の色を変えた。
「哀音……!!」
反応を見、暗がりに走り出す。追ってくるのが気配で分かる。
後ろに何人かが追ってきていることも確認すると、そのまま話し合いで出された人気の全くない場所へとやってきた。
母屋に似た建物が並んでいるが、使われていないのか灯りはなく、月の明かりだけが哀音の顔をうつしていた。
足を止めて振り返れば永倉がいて、その後ろに後から追ってきた土方、沖田がいる。
「酔っぱらいですか、相手になりませんね」
「やってみねぇとわかんねーよ」
「やり合うつもりはありませんよ、わたしは」
沖田と土方が順に構えた。
「平隊士は置いてきたのですね」
「てめぇ一人なら俺たちだけで十分だ」
「土方さん、さっさとやっちゃいましょ」
哀音は石を拾って、片手で上に投げる行為を繰り返す。
これ以上気を引くのは殺気を感じとられる危険があるため、やめた方がいい。
哀音一人なら3人で良いと言った。その10倍はいる藩士ならどうなのだろうか。
歩みを進めて、川に近づいた。
―――ぽちゃんっ!
石を投げ入れると、一気に建物の影からあの時集まった藩士らが新選組を囲んだ。
「ようやった!」
「!? 長州の奴らと仲間だったのか、哀音!」
永倉の声に答えずにいると、目の前に立つ藩士を斬りすて向かってきた。
それと同時に藩士も新選組も動き始めた。
「うおおおっ!」
永倉の太刀筋はまっすぐでさほど避けるのは難しくないが、当たれば大怪我する力があった。
「わたしは戦いません」
静かに答えたが、永倉の斬撃は容赦ない。
短刀が出せない今、避けるしか策はない。
そう考えた時、永倉を背から襲う藩士が見えた。
