二階にある大部屋らしいそこからは、多くの話し声が聞こえてくる。
人数の多さが窺えると、少しばかり緊張の波が襲ってきたが、胸に下げた錆びた鈴を強く握り落ち着かせた。
襖が主人によって開けられ、中に入った。
「見ぬ顔じゃのう」
入ってすぐに、藩士に声をかけられた。
「初めて来ました。話を聞いて、力になりたく参りました」
「あんたはどこの出や?」
「三河国(みかわのくに)ですが、長州藩の方には御恩がございます。故に協力したく存じます」
「そうか!それは良い!囮をやってくれるんじゃな」
気を良くした藩士に頷いて応える。周りにいた人もそれを聞いて笑みを浮かべた。
商人から聞いた話は出鱈目ではなく、その話がここではされていた。
「新選組を誘き出し、囮が気を引いている内に討つ。囮はこん子がやってくれるけぇ、わしらは討つだけや」
新選組の一部が、大坂へやって来る、という情報は広まっており皆知っていた。
土方をはじめとする幹部と平隊士数名。
さほど多くはないものの、幹部は腕が確かな者が連れてこられているし、平隊士も先有望な者を連れてきているというが確かではない。
今回は誰かと接触することを目的としているので、人数はいらないのだという。
そこをついて、新選組が揺らいだ隙を京の仲間が狙うという策らしいが詳しくは聞かなかった。
とりあえず囮役は囮の仕事をしろ、と言わんばかりの説明はあったが、それ以上の話はなかった。
「決行日は八日後――新選組が来て少し経つ頃だが、その日に酒の席を設けることが分かっとる。帰り道に使われる通りから、裏道へ誘いそして合図をそん子が出す。合図が出たら襲うっちゅー策ばい」
ひと通りの説明が終わると、皆が談笑を始めた。
今信用はされていない。信用されるには親睦を深めることと、今回の策を成功に導く必要がある。
せっかくの機会、話を聞くためならどんな事にも堪えてやる。
近くの3人の輪に迷いなく入る。
