-アイネ-







―――ベン…ベンッ






三味線を鳴らして、演奏を始める。








彼女の周りには人だかりが出来、乾いた音に耳を傾けていた。






葵の髪飾りと明るい色の着物を身にする哀音は、表情もなく行く人々を見つめながら手を動かした。










拍手を送られ、三つ指を置いて丁寧に頭を下げる。








「あんた、初めて見るねぇ」








「愛しい音の愛音と申します。三味線奏者として、旅をしております」








薄く笑いながら、答えた。








大坂は商人や力士、それを観に来た人々や歌舞伎などの芸を観に来た人々で賑わっている。








多くは商人で、大阪湾が近くにあるため、江戸や地方から船で荷が運ばれてくるのが大きな理由だ。





人の出入りが激しい大坂なら、京よりも情報が得られるだろうとやってきた。









「綺麗やねぇ」






哀音は自分の魅せ方を知っている。髪飾り、着物、三味線、立ち振る舞い全てを使って魅せ、情報を聞き出す。師匠と慕ったあの人から、教えてもらったことだった。











「どこから来たん?」




「京の都からです」




「京から!京で色々あったんやろ?お嬢さんよう無事やったなぁ!」










大坂の人がよく話すと言うのは、商人の影響だろうか。商人でない人も会話に加わるあたりは、その感じを受ける。