「わても、愛音がどうしているかは分かりまへん。わてが知っていることは、愛音も哀音も同じ優しい子には変わらへんということと、親が殺され家族が壊されたこと――そして、妹が生きていること」
「妹が……?どうして知って…」
「妹と会(お)うたからです。確信を持ったのはつい最近のことですが」
「妹に会えますか」
問いに、少しだけ迷う素振りを見せてから答える。
「妹の方は、愛音が生きていることを知りまへん。会うたところで、何も変わらないのに会うんですか」
そこで哀音を思い出す。哀音も家族は皆亡くなったというような態度であった。
錆びた鈴、三味線、二枚の撥に対して丁寧に礼をしていた彼女。
お互いに生きているのに、生きていると知らずただ信じることしか出来ないのか。
たった二人の家族なのに。
そんなの、悲しすぎる。
「哀音に、文を書いてもらえれば、何か変わります。哀音を止めることが可能かもしれません」
「止めるために、というのならわては頼めまへん。それは利用と同じやろう」
「小椋さん」
「わては、愛音を止めたくない。…いや、止めるのが怖い。愛音が一人の女として生きていければそれが、一番良いと思います。
けど、彼女自身が悩んでそれでも選び生きてきた道を切ってしまえば、彼女は生きられないんやないでしょうか。
彼女の幸せは、わてらが決めるものではありまへん。故に、そっとしておくのが最良と思っとります」
