「母は、殺されました」
泣きそうな、でも過去のことだと言わんばかりの笑みを向けて。
静かな声音でそういった。
「曲を最後まで教えてもらうことは、ありませんでした。だから、未完成なんです。私だけの曲でもないから、私の手で完成させても、それは意味を持ちません」
小椋の中で、欠けていた何かが埋まった感覚があった。
脳裏に浮かびか上がるのは、一人の女。
「お姉さんは、島原(ここ)にはおらんのか?」
「いません。生きているかさえ、分かりません。 私は川に流されて、置屋の主人に拾われここにいます。姉が川に流されたのか、それとも殺されてしまったのか……
でも時々、三味線の音が響くんです。私の大好きだったあの音が。だから、生きてるって信じてます。島原から出れないので、確かめる術が無い以上、信じることしかできませんし」
こんなに花が己のことを話してくれるのは、初めてだった。
今まで話したがらなかったので聞かないようにしていたが、その理由は、なんとなく分かった。同情を引くには十分の話だったからだろう。
「お姉さんの特徴は…」
「この話はやめましょう?義春様との時間を、くだらぬ話で使いたくありません」
花はそう言って、小椋に擦り寄った。
これ以上追求はしたくないと思い、小椋は返事の代わりにそっと肩を抱いた。
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