「小椋はんに、文が届いてますよって」 「文?」 「前川達って言うてはりました。どうしますか?」 「後で読んでおく、音里」 禿の音里は文は帰り際に渡すと伝え、襖を閉めていったので、再び二人だけになった。 「――花、1曲頼んでもええやろか」 「はい。聴きたい曲はありますか?」 小椋は躊躇ったが、少し目線を下げて。 「……思ひ出の曲といっていた、あの曲を」 彼女もまた、沈黙をおとした。そして小椋の腕の中で、静かに頷いた。