-アイネ-





「!………三味線の音…」





胸が締め付けられるような、それであってあっさりとした三味線の音。








耳に一音だけ、響いた。










「どうしたんや、花」





「なんでもございんせん、義春様」







笑みを浮かべて頭を振る。




――しゃんっ、しゃんっ







髪飾りについた鈴が音を立てる。











「廓詞(くるわことば)は使うなと、頼んだはずやぞ、花」







「義春様もうちのことを花と呼びます」







「二人きりの時なら良いと、花が承諾したんや。廓詞も名も」













そう言って男は抱き寄せる。








「不思議なお方。廓詞を使うなといい、花と呼ぶ。義春様だけです」






「花に覚えてもらえるなら、それでいい。花がいればそれでいい」










抱き寄せる手に力が入る。花と呼ばれる彼女も、男の胸に手を当て寄り添う形を取る。













「失礼します」







襖があいて、禿(かむろ)が丁寧に礼をした。