「……哀音は、"哀音"ではないのか…?」
つぶやきに近い発せられた声に、涙を拭った。
「哀音は本当は…人斬りになりたくは、なかったのではないか」
「………」
「何故、人斬りになった。哀音とは、誰だ…」
冷たい声では、なかった。
哀音は撥を2枚取ると、1枚を外の光にかざした。
不自然についた、赤黒い斑点。
「………」
ぎゅっ、と握り締め前川に近づく。
「それより、あなたはどうするのですか」
「…あぁ、戻った時の言葉は決まっているが、哀音に殺されかけるというのは、予想外だったため少々困ってはいる。どう逃れてきたと言えばいいのか」
「………人に死なせないと言っておきながら、策は何も無かったと」
苦笑する前川に、あきれ顔を見せる。
時が経てば直にこの借家もあきらかになる。早く手を打たなければ、互いに身が危うい。
「私を悪者にすれば、済む話でしょう」
「哀音、提案がある。……新選組と」
「断ります。新選組と共に行動したくありません。
それが、私とあなたをこの状況から救うただ1つの方法だとしても。
私は悪者になるとも、この命を捨てても構わないとも言いました。それで十分でしょう」
