「っつ………」
顔を歪めた前川に、手の力を緩めた。
「痛みますね。仮にも組長、斬られれば大きな傷となることは当然のこと」
「それでも私を盾にしたところが、お前らしい」
「私なりの気遣いはしましたよ? 肩を斬られそうだったので腕になるよう――刀が振れなくなることはないように、あなたの体を移動させて盾にしたのですから」
次から次へと流れる血を、手ぬぐいを縛り付けて止血する。
それから履物を脱いで、部屋へあがり薬箱を手に戻ってくる。
手ぬぐいをとり、包帯を巻き始めたところで前川が口を開いた。
「性格、悪いな」
「あなた程ではないですよ。今までのことを考えれば、私のしたことは可愛いもの」
「その割には、私を助けるような真似をし…哀音らしくない」
哀音らしくない。それは1番哀音自身が思っていることだった。
孤独で生きると決めながら、前川をあの場に置いてこなかったのは何故なのか。
邪魔だ、といいながら前川を失いたくない理由があるのかもしれない。
「ただ、あなたをあの場に置いていくことは、したくなかった。それだけです」
「私を置いていけば、哀音はこれから先上手くやっていけたのに?」
返す言葉が見つからなかった。
必然的に沈黙が訪れる。
