前川の腕から鮮血がたれ、小さなうめき声が耳に入る。永倉がそれを見、顔を歪めた。
哀音は前川の体の腰の辺りから短刀を突き、相手の体に痣を与える。
「ぅっ……」
「新八!」
前川が流血した腕を強く押さえて、血がたれないようにしたのを目にし、聞こえるか聞こえないかくらいの声で彼に囁いた。
「走れ」
あくまでも刃は首元にあてたままだが、2人同時に走り出す。
痛手を負った永倉を心配してか、原田は追ってこず、すんなりと目的の場所まで行くことが出来た。
「ここは………?」
扉を開け、足を踏みいれる。
閑散とし寂しげな建物の内部。彼が疑問を持ちながら見回す。
入ってすぐ左手には部屋があり、襖はあいている。奥には水場があり、空の桶が置いてあるだけ。
――かたっ
足元にあったが気づかなかった桶を蹴ってしまい、中に入った水が揺れる。
誰も住まない廃墟のような印象を受けるが、左手の部屋はとても綺麗で埃すら見当たらない。
「ここは、私が住まいとする所です。……ここに座って」
部屋に上がる手前に段差があり、腰かけると桶にあった水へ手ぬぐいを落とす。
水分を含みゆらゆら揺れる手ぬぐいを取り、前川の腕の傷へ触れた。
