そこで背の高い男―――原田が槍を構えて待っていた。
1人で哀音を捕縛しようと考えるほど馬鹿ではなかったとして、2人でも同じだという結論にはいたなかったのか。
普通に考えればすぐに応援がくる。
人数は少ないときに逃げた方がいい。
「よう、哀音」
「人の話を聞かない方々ですね。愛しい音だと何度言わせるのでしょう」
背後で足音が止まった。永倉と前川が来たか。
背後にちらり、と目をやれば前川が永倉より前に出ていて、少しでも永倉との距離をあけてくれている。
「そんな言い訳する必要ないぜ。女と戦うのは気が引けるが、お前は捕縛する」
もう捕らえたといわんばかりに笑みを浮かべて、槍を持つ手に力を入れる。
「させませんよ。私はいくら組長格といえど、刀の腕で負けるとは思っていません」
負ける訳にはいかないから。けして負けない。
短刀を取り出して、前川の腕をひいて素早く首に刃を当てた。
原田や永倉が反応したが遅かった。
「そいつを離せ」
「断わります。利用価値がなくなった用済みの男とはいえ、私のことを知りすぎました。
この男は始末をしなければなりませんから」
少し力をいれれば、血が首を伝い衣を汚す。だが、前川の表情は全く変わらず大人しい。
「道をあけてください、原田さん」
そういった刹那。
永倉と原田が互いに目線だけで合図をし、襲いかかってきた。
前川を盾にして永倉の斬撃を防ぎ、原田の槍を短刀で受け止めてなぎ払う。
