「あぁ、止めてやらぁ。この縄で縛ってな」
「……………」
「永倉さん……?!」
永倉と呼ばれた威勢の良い彼は島原で飲んでいたというには、酒の香りはしない。前川を誘ったのは永倉と言っていたが――もし、同じ人物だとしたら前川は目をつけられていたことになる。
このまま新選組に捕縛される訳にはいかないけれど、前川を残して逃げれば咎められるのは目に見えている。
「何故私が縄で縛られるのでしょう?私にそのような趣味はありませんが」
「そんな意味じゃないんだよ、お前が哀音だからってこと以外に捕縛する理由なんざねぇな」
腰を低くして刀に手をかける構えをする。
「前川、お前が裏切り者とは思いたくねぇが話は、哀音を捕縛してからだ、捕まえろ!」
永倉は声をあげて前川に指示する。
態度からして幹部―――組長だろう。
前川は平隊士。組長の永倉に逆らえる立場ではない。だから小さく哀音に声をかける。
「裏から逃げろ」
前川が手を伸ばしてくる。簡単によけて、奥に進んで裏口へと向かう。
背後で追う音を聞きながら裏口から外へ出る。